『共喰い』( 田中慎弥)のおすすめ書評

ほぼマンスリーで書評をしています。
小説から実用書まで、おすすめの1冊を紹介します。

今月の1冊は、第146回の芥川賞受賞作品『共喰い』です。
著者は田中慎弥さんです。

※ネタバレはほぼありません。

併録作品は『第三紀層の魚』です。
『共喰い』とは、違ったタッチの作品です。
→これはこれで楽しいです

『共喰い』の概要

『共喰い』

『共喰い』
没入感
(4.5)
メッセージ
(2.5)
表現描写
(5.0)
総合評価
(4.5)

 

ざっくりあらすじ

血の繋がりに対する嫌悪、父性へのヘイトを描いた作品です。

主人公の男子高校生、遠馬は、父親の屈折した性嗜好や鬱屈とした日常を切り取ります。
遠馬の父親は、性交渉の際、女性に暴力をふるいます。

遠馬の生母は、暴力から逃げるために離婚、新たに娶った嫁にも父親は暴力をふるいます。

遠馬はそんな父親に対して、憎悪を感じます。
しかし、暴力をふるわれながらも父親と共にする生母や義母に対しても違和感を覚えます。

 

父親への憎悪やその憎悪を受け止める女に対して、遠馬は憤りのない想いを募らせます。
その遠馬の想いのはけ口となったのが、恋人の千種です。

千種との情事の最中、遠馬は自分の血の中に、暴力をふるう父親を感じます
「(もしや、自分も女に暴力をふるわなければ愉悦に浸れないのでは…)」という葛藤が遠馬を襲います。

遠馬は千種に対して、内面に抱える暴力性が溢れでそうになります。
その一方で、父親が通う売春婦を同じく買い、自分の暴力性を売春婦に打ち付けます。

その姿には、父親との断ち切れぬ血の繋がりを感じざるを得ませんでした。

キーワードだけ
転:欲と想いの葛藤です
結:憎し血の繋がりの連鎖の果て

ここが凄い!

豊かな表現描写

『共喰い』の文体は非常に美しいです。
芥川賞受賞作ですから、言うまでもないのですが、無骨さと洗練さを兼ね備えた作品です。

扱う題材、場所、登場人物からは微かな醜悪が常に漂います。
凄いのは、その醜悪を洗練に表現しているために、淀みなく物語が入ってきます。

血の繋がりや性癖の鬱屈した描写を見事に捉えた作品です。
町を割る川を女性の性器に喩える表現は秀逸です。

女性目線が面白い

途中から主要人物である恋人の千種や生母の仁子への想いが厚くなります。
中盤からは彼女たちへの肩入れなしでは読めなくなります。

男性の性癖を疎みながらも女として、「それをどう受け止めるか」という葛藤とそれを断ち切る強さを感じれます。
欲に塗れた愚劣な存在と暗影の中、それに対峙する千種や仁子が物語の鍵を握ります。

 

『共喰い』の論評

論評:1

参考 共喰い 田中慎弥著 閉ざされた世界のふしぎな静寂日本経済新聞

暴力を孕(はら)んだ性の閉ざされた世界。子は父を嫌悪しながらも、その無頼の姿に自らを重ねようとし、父は子を異物のように眺めながらもいとしさの情感をあふれさせずにはいられない。

→物語の基本線である子と父の関係に触れています
→憎悪と信頼、異物と愛おしさ、アンビバレントな情感を感じます

 

論評:2

参考 豪雨の前、父と息子に高まる緊張好書好日

氾濫(はんらん)する川、橋の上の父母、「父の息子」としての「業」を断ち切ろうとする瞬間。鮮やかな場面が記憶に刻まれ、嵐になぎ倒されたような読後感が残った。

→憎し血の繋がりを「業」と表現し、それを断ち切ることを鮮やかと捉えます
→読後感も納得です

 

結論

2010年代の芥川賞受賞作では、1番好きな作品です。
無骨で赤裸々な内容を鮮やかに映しています。

情景描写が理解しやすく、血と因縁へ考えさせてもらえます。

 

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